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昔の千歳・今の千歳
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6 雪上を歩きまわる昆虫
千歳市教育委員会 埋蔵文化財センター

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 これまでこのシリーズで紹介してきましたように、千歳には古くから人々が生活をしており、多くの生活の痕跡が残されている場所があります。それとともに豊かな自然のある地域でもあります。今回は話題を転じて、生き物について紹介してみようと思います。

ユキクロカワゲラの仲間
ユキクロカワゲラの仲間
 一年のなかで一番雪深い今頃は、もっとも昆虫と縁遠い季節かもしれません。ところが、冬こそ活躍の季節である珍しい昆虫がいます。ちょうどこの時期、千歳ではママチ川上流部の林道や支笏湖周辺に行くと、体の長さ1cm弱の黒い昆虫が雪の上を歩いているのを見かけることができます。ユキクロカワゲラの仲間です(以前はセッケイカワゲラと呼ばれていました)。翅(ハネ)がはえていませんが、これで成虫です。
 わざわざ好き好んで寒い時期に出てくる彼らでも、変温動物ですから寒すぎると動けなくなってしまいます。そのため、よく晴れた陽射しの強い日ほどたくさん歩いています。真っ黒な体をしているのは、熱を効率よく吸収するためと考えられます(冬に出てくる虫は黒い体をしたものが多いようです)。また、翅がないのは、放熱を少しでも減らすよう体表面積を小さくする、寒さへの適応だと考えられています。

翅の短いカワゲラ
翅の短いカワゲラ
 彼らは、雪のない季節どこで生活しているのでしょう? 実は、川に近い場所で多く見かけることから推測できるように、成虫になるまでは川の中で暮らしているのです。名前からも分かるように、代表的な川の水生昆虫であるカワゲラというグループに属します。しかし川の中の暮らしぶりは、ほかのカワゲラとは随分違います。季節が進み雪が少なくなると、成虫は川の中に産卵します。一方、卵から孵化した幼虫は、肉眼ではほとんど見えないほどの小さな体のまま休眠してしまい、なかなか成長しません。夏を越し、晩秋になって水温が低くなるとようやく成長をはじめ、短期間で成虫となって雪の上に出ます。心底、冬が好きな昆虫なのです。

 さて、彼らはこの季節、なぜ雪の上を歩きまわっているのでしょう? 雪の上に散らばっている植物の破片や藻類などを食べるので、もちろん餌を採るためでもあります。もう一つの理由は、川の上流へ向かって移動する必要があるからです。卵や幼虫として一年近く水中で過ごす間、川の流れでどんどん下流へ流されてしまうため、それを補おうと上流へ移動しているのだと考えられています。

クモガタガガンボ
クモガタガガンボ
 雪虫といえば、北海道の人は秋に白い衣をまとって出てくるアブラムシの仲間のことを思い浮かべるでしょう。しかし、本州の雪国ではユキクロカワゲラに代表される雪上に出てくる虫のことを指す場合もあります。千歳周辺ではユキクロカワゲラのほかに、短めの翅がはえた別の種類のカワゲラや、一見クモに似ているクモガタガガンボなどの「雪虫」が見られます。
 最初にこの虫を「ユキクロカワゲラの仲間」と紹介しました。なぜ「仲間」を付けたかというと、この種は本州に生息している「ユキクロカワゲラ」に似ていますが、別の種で、まだ名前が付けられていないからです。昆虫はあまりにも種数が多く、名前を付けるという基本的な研究もまだ十分にはなされていません。いまだに無名の昆虫が身近にもいるのです。
 これからも、折りにふれて千歳周辺でみられる水辺の生き物を紹介していきたいと思います。